広島県の方言、通称「広島弁」と聞くと、どのようなイメージが浮かびますか?映画や漫画の影響で「ちょっとこわい」「力強い」と感じる方もいれば、地元の人が話すのを聞いて「なんだかかわいい」「親しみやすい」と感じる方もいるでしょう。実は、広島弁は非常に表情豊かで、同じ言葉でもイントネーションや場面によってガラリと印象が変わる奥深い方言なのです。
この記事では、そんな魅力あふれる広島県の方言を一覧でご紹介します。代表的な単語や日常会話で使えるフレーズはもちろん、県内での地域差や、広島弁が持つ独特の文法的な特徴まで、わかりやすく解説していきます。この記事を読めば、あなたも広島弁の面白さに気づき、実際に使ってみたくなるはずです。広島の文化をより深く知るきっかけとして、ぜひ最後までお楽しみください。
広島県方言の一覧【基本編】これを押さえればあなたも広島通!
まずは、広島弁の基本となる代表的な単語を一覧でご紹介します。これらを覚えるだけで、広島県民との会話がもっと楽しくなること間違いなしです。
よく聞く定番の広島弁
広島弁と聞いて多くの人が思い浮かべる、特に有名な言葉を集めました。意味を知ることで、会話の中で耳にしたときに「これ知ってる!」と嬉しくなるはずです。
・じゃけえ・じゃけん
「~だから」「~なので」という意味で、広島弁を象徴する最も有名な言葉の一つです。 文の終わりだけでなく、理由を説明する際に文の初めに使われることもあります。 例えば、「雨が降りそうじゃけえ、傘を持っていきんさい」(雨が降りそうだから、傘を持っていきなさい)のように使います。
・たいぎい
「面倒だ」「おっくうだ」「疲れた」といった状態を表す言葉です。 何かをするのが億劫なときや、体がだるいときに「ああ、たいぎい」と口にします。広島県民なら誰もが使うと言っても過言ではないほど、日常生活に浸透している方言です。
・ぶち
「とても」「すごく」という意味の強調表現です。 「ぶちすごい」「ぶちおいしい」のように、形容詞の前につけて使います。若者を中心に広く使われており、「ばり」や「ばち」と言うこともあります。
・~しんさい
「~しなさい」という軽い命令や勧めを表す言葉です。 「はよしんさい」(早くしなさい)や「こっちきんさい」(こっちに来なさい)のように使います。「~しなさい」よりも少し柔らかい響きに聞こえるのが特徴です。
動作や状態を表す広島弁
続いて、人の動きや物事の状態を表す、ユニークな広島弁を見ていきましょう。標準語とは全く違う言葉も多く、知っていると面白い発見があります。
・いらう
「触る」「いじる」という意味です。 「勝手にいらうな!」(勝手に触るな!)のように使われます。 大切にしているものにむやみに触れてほしくない、という気持ちがこもった表現です。
・たう
「(手が)届く」という意味で使われます。 高い場所にあるものを取ろうとして「あ、たうわ」と言えば「あ、届く」という意味になります。逆に届かない場合は「たわん」と言います。 東京にある広島県のアンテナショップの名前「TAU」もこの方言が由来となっています。
・はぶてる
「すねる」「ふくれる」「腹を立てる」といった、機嫌を損ねた様子を表す言葉です。 子どもが言うことを聞かずにぷいっと横を向いたときなどに、「また、はぶてとる」のように使います。
・にがる
「(えぐるように)ズキズキ痛む」という、特定の痛みを表す言葉です。 例えば、虫歯が痛むときや、体の節々が痛むときに「歯がにがる」のように表現します。標準語の「痛い」だけでは表現しきれない、鋭い痛みや継続的な痛みを示す際に使われます。
・はしる
「(切り傷などが)ヒリヒリ痛む」という意味です。 標準語の「走る」とは全く意味が異なるので注意が必要です。 例えば、転んで擦りむいた傷口が痛むときに「傷がはしる」といった使い方をします。
ちょっと面白いユニークな広島弁
中には、初めて聞くと意味が想像しにくい、面白い響きの広島弁もあります。こうした言葉を知ることで、方言の多様性や楽しさに触れることができます。
・いなげな
「変な」「奇妙な」という意味です。 見慣れないものや、少し変わった様子を指して使われます。現在では主に年配の方が使うことが多い言葉ですが、山口県や島根県、愛媛県の一部でも使われています。
・みやすい
「簡単な」「容易な」という意味です。 標準語の「見やすい」とは意味が異なるため、文脈で判断する必要があります。「この問題はみやすい」と言えば、「この問題は簡単だ」という意味になります。
・がんぼう
「いたずらっ子」「わんぱく小僧」という意味で、主に男の子に対して使われます。 少し困った子、というニュアンスを含みつつも、どこか愛情のこもった呼び方です。
・どろどろさん
これは「雷」を意味する、非常にかわいらしい響きの言葉です。 雷のゴロゴロという音を「どろどろ」と表現し、それに敬称の「さん」を付けています。自然現象を擬人化する、ユニークな感性が表れた方言です。
広島県方言の一覧【応用編】日常会話で使えるフレーズ
基本的な単語を覚えたら、次は実際の会話で使えるフレーズに挑戦してみましょう。ここでは、あいさつや感情表現など、さまざまな場面で役立つ広島弁のフレーズを一覧で紹介します。
あいさつや感謝で使える広島弁
日々のコミュニケーションに欠かせない、あいさつや感謝の気持ちを伝える広島弁です。使うと一気に地元の人との距離が縮まるかもしれません。
・おはようがんす
「おはようございます」の丁寧な言い方です。 「~がんす」は「~ございます」が変化したもので、少し古風で上品な響きがあります。
・ほうじゃのう
「そうだなあ」と相手に同意するときの相づちです。 会話の中で「ほうじゃのう、確かにそうじゃ」のように使われ、話に深みと共感のニュアンスを加えます。
・えっとえっと
「たくさんたくさん」「いっぱい」という意味です。標準語の「えーっと」と考え事をするときに使うのとは違い、量が多いことを表します。
・ありがとう
感謝を伝える「ありがとう」は、広島弁ではアクセントの位置が標準語と異なります。標準語が「ありがとう」と「り」と「が」を高く発音するのに対し、広島弁では「ありがとう」のように「が」にアクセントを置くのが特徴です。
気持ちを伝える感情表現の広島弁
嬉しい時、驚いた時、好きな気持ちを伝える時など、感情を豊かに表現する広島弁のフレーズです。ストレートな表現が、より気持ちを伝えてくれます。
・ぶちうれしい!
「すごく嬉しい!」という喜びを表現する言葉です。強調の「ぶち」が付くことで、喜びの大きさが伝わります。
・わりゃ、なんなら!
「お前、なんだ!」と、相手にすごむ時や喧嘩の際によく使われる、少し強めの言葉です。 映画などで聞く「こわい広島弁」のイメージはこのフレーズから来ているかもしれません。
・好きじゃけえ、付き合ってくれん?
「好きだから、付き合ってくれませんか?」という告白のセリフです。 「~じゃけえ」という方言ならではの語尾が、ストレートな気持ちを表現しています。女性が使うと、かわいらしい印象を与えることもあります。
・はぐいい
「はがゆい」「もどかしい」という気持ちを表します。 思うようにいかない状況や、じれったい気持ちを的確に表現する言葉です。
男女や世代で違う広島弁の表現
広島弁には、話す人の性別や世代によって使い方が異なる言葉もあります。こうした違いを知ると、さらに広島弁への理解が深まります。
・一人称(わたし)
女性は「うち」をよく使います。 「うち、そう思うよ」のように、日常的に使われる一人称です。一方、男性、特に年配の方は「わし」を使うことがあります。
・二人称(あなた)
「あんた」が一般的ですが、男性が少し乱暴な口調で相手を呼ぶときには「わりゃ」が使われます。
・世代による違い
例えば、「難しい」という意味の言葉に「いたしい」と「やねこい」があります。 「いたしい」は比較的広い世代で使われますが、「やねこい」は主に年配の方が使う傾向があります。 また、「変な」を意味する「いなげな」も、最近では年配の方が使うことが多くなっています。
広島県方言には地域差がある?安芸弁と備後弁の違い一覧
広島県と一口に言っても、地域によって言葉には違いがあります。大きく分けると、県西部で使われる「安芸弁(あきべん)」と、県東部で使われる「備後弁(びんごべん)」の2つに大別されます。 一般的に「広島弁」として知られているのは、広島市などを中心とする安芸弁です。
エリアの分け方とそれぞれの特徴
広島県の方言は、かつての行政区分であった「安芸国(あきのくに)」と「備後国(びんごのくに)」の境界あたりで大きく分かれています。
・安芸弁(広島市、呉市、廿日市市など県西部)
一般的にイメージされる「広島弁」はこちらを指します。 語尾に「~じゃ」「~じゃけえ」などがよく使われるのが特徴です。山口県の方言とも近い部分があります。
・備後弁(福山市、尾道市、三原市など県東部)
岡山県の方言(岡山弁)に近い特徴を持っています。 そのため、同じ広島県内でも東部と西部では言葉の響きがかなり異なります。
語尾でわかる安芸弁と備後弁の違い
最もわかりやすい違いは、言葉の語尾に現れます。 これを知っていると、話している人が県のどの地域の出身か、おおよその見当がつくかもしれません。
・安芸弁の代表的な語尾:「~がんす」
安芸地方では、丁寧な表現として「~でございます」が変化した「~がんす」が使われることがあります。 例えば「さようでがんす」(そうでございます)といった具合です。
・備後弁の代表的な語尾:「~やんす」「~ばあ」
備後地方では、同じく丁寧な表現として「~やんす」が使われることがあります。 また、「~ばかり」という意味で「~ばあ」という特徴的な言い方もあります。 例えば、「こればあ」(こればかり、これだけ)のように使います。
単語やアクセントの具体的な違い
語尾だけでなく、単語やアクセントにも違いが見られます。
・「だから」の表現
安芸弁では「じゃけえ」と母音を伸ばす傾向があるのに対し、備後弁では「じゃけん」と「ん」で止めることが多いです。 お笑いコンビ「アンガールズ」のお二人は、安芸出身の山根さんが「じゃけえ」、備後出身の田中さんが「じゃけん」を使うことが多く、違いがわかりやすい例として挙げられます。
・アクセントの違い
安芸弁は「中輪東京式アクセント」に分類され、多くの単語のアクセントは標準語と共通しています。 一方、備後弁は「内輪東京式アクセント」で、岡山弁に近いイントネーションになります。 このため、同じ単語でも地域によって響きが異なります。
・連母音の変化
言葉の中で母音が連続するときの発音(連母音)にも違いがあります。例えば「赤い(akai)」と言うとき、安芸弁では「あかい」と発音しますが、備後弁(特に福山市周辺)では「あきゃあ」のように変化することがあります。 これは岡山弁にも見られる特徴です。
広島県方言の文法的な特徴一覧
広島弁の面白さは、単語やフレーズだけではありません。ここでは、他の地域の方言とは少し違う、文法的なルールや特徴を一覧にして解説します。
広島弁のキホン「~じゃ」と「~よる」
広島弁の文法を理解する上で欠かせないのが、断定の「~じゃ」と、動作の進行を表す「~よる」です。
・断定の助動詞「じゃ」
標準語の「~だ」にあたるのが、広島弁の「~じゃ」です。 「これは本じゃ」のように使います。西日本方言に広く見られる表現ですが、特に関西地方で使われる「や」とは異なり、広島や岡山では今でも「じゃ」が根強く使われています。
・動作の進行形「~よる」
標準語の「~している」にあたる表現として、「~よる」が使われます。例えば、「雨が降りよる」は「雨が降っている」という意味です。似た表現に「~とる」がありますが、「~よる」は動作が今まさに進行中であるニュアンスを強く表します。
特徴的な助詞「けん・けえ」「のう」「たい」
会話のニュアンスを豊かにする助詞にも、広島弁ならではの使い方があります。これらを使いこなせると、より自然な広島弁に近づきます。
・理由の「けん」「けえ」
「~だから」という理由を表す接続助詞です。 古語の「故に(ゆえに)」が由来とされています。 「時間がないけえ、急ごうや」のように使います。
・念押し・同意の「のう」
文の終わりに付けて、「~だねえ」と相手に同意を求めたり、念を押したりする時に使います。 「今日は暑いのう」のように言うと、しみじみとした感情がこもります。
・疑問の「たい」
文の終わりに付けて、軽い疑問を表します。「~かい?」に近いニュアンスで、「元気でやりよるたい?」(元気にやっているかい?)のように使います。
アクセントとイントネーションの法則
広島弁の独特なリズムは、アクセントのルールから生まれています。
・中輪東京式アクセント
広島弁のアクセントは、専門的には「中輪東京式アクセント」に分類されます。 これは、単語のアクセントが基本的に標準語と似ていることを意味しますが、いくつか特徴的なルールがあります。
・3文字以上の言葉は真ん中にアクセント
一般的に、3文字以上の言葉では真ん中の音にアクセントが置かれる傾向があります。 例えば、「ありがとう」は「が」を強く発音します。
・一文節一アクセントの傾向
一つの文節(意味のまとまり)の中で、高く発音される部分が一つだけになる傾向があります。 このルールが、広島弁の滑らかで少しゆったりとしたイントネーションを生み出しています。
広島県方言が聞ける作品や有名人
広島弁の魅力に触れるには、実際に使われているのを見聞きするのが一番です。ここでは、広島弁が印象的な映画や漫画、そして広島県出身の有名人を紹介します。
広島弁が登場する有名な映画・漫画
数々の作品で、物語の舞台やキャラクターの個性付けとして広島弁が効果的に使われてきました。
・映画『孤狼の血』シリーズ
広島県を舞台にした警察と暴力団の抗争を描いた作品で、全編にわたって生々しい広島弁が飛び交います。 俳優たちの迫力ある広島弁の演技は、作品のリアリティを高めています。
・漫画・アニメ『この世界の片隅に』
戦時中の広島県呉市を舞台にした作品で、主人公のすずさんをはじめ、登場人物たちが話す広島弁が、当時の日常を温かく描き出しています。
・漫画・アニメ『BADBOYS』
広島を舞台にした暴走族の物語で、登場人物たちのセリフは広島弁で書かれており、作品の大きな特徴の一つとなっています。
広島弁を話す広島県出身の有名人
テレビやラジオなどで活躍する広島県出身の有名人が話す方言は、私たちにとって最も身近な広島弁かもしれません。
・有吉弘行さん
広島県安芸郡熊野町出身のお笑いタレント。テレビ番組などで、ふとした瞬間に広島弁のイントネーションや単語が出ることがあり、親しみやすさを感じさせます。
・アンガールズ
山根良顕さんは広島市安佐南区出身、田中卓志さんは府中市(備後地方)出身のお笑いコンビ。 二人の会話からは、前述した安芸弁と備後弁の微妙な違いを聞き取ることができます。
・Perfume
3人とも広島県出身のテクノポップユニット。特にメンバーのあ~ちゃん(西脇綾香さん)は、MCなどで広島弁を交えたトークをすることで知られています。
・柳田悠岐さん
広島市安佐南区出身のプロ野球選手。 ヒーローインタビューなどで見せる、飾らない広島弁での受け答えがファンに人気です。
広島弁に触れられるその他の機会
作品や有名人以外にも、広島弁に触れる機会はあります。
・広島東洋カープの応援
マツダスタジアムでの野球観戦では、ファン同士の会話や応援の中から、活気あふれる生の広島弁を聞くことができます。
・地元のラジオやテレビ番組
広島県のローカル局が放送する番組では、出演者が自然な広島弁で話していることが多く、日常生活で使われる方言に触れる絶好の機会です。
・YouTubeやSNS
最近では、広島在住のクリエイターが方言を使ったコンテンツを配信しています。声優のMachicoさんが祖母と広島弁で会話する動画など、リラックスした雰囲気の中で方言の魅力を感じることができます。
まとめ:広島県方言の一覧を覚えて使ってみよう
この記事では、広島県の方言について、基本的な単語の一覧から日常会話で使えるフレーズ、さらには安芸弁と備後弁の地域差や文法的な特徴まで、幅広くご紹介しました。
広島弁は、語尾の「~じゃけえ」や強調の「ぶち」といった有名な言葉だけでなく、「たいぎい」「はぶてる」など感情や状態を的確に表すユニークな表現が数多くあります。また、同じ県内でも地域によって言葉に違いがあることも、方言の奥深さを示しています。
最初は少しこわい印象があるかもしれませんが、知れば知るほど、その言葉の裏にある温かみや力強さ、そしてどこか愛らしい響きに気づくはずです。今回紹介したフレーズを少し覚えて、広島を訪れた際に使ってみたり、広島出身の人との会話で耳を澄ませてみたりしてはいかがでしょうか。きっと、広島の文化や人々をより身近に感じられるはずです。
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